珈琲の科学 香り

 味に対して科学を持ち出すのはナンセンスな気がします。レトルト食品に代表されるように味に対する科学は人間の思考や味覚を平均化してユーザーに対してアプローチをします。しかし、珈琲の世界とは、元々エンジニアの世界にいた私のような人間にとっては恣意的で文学的すぎる面を持ちすぎているように感じます。よくある「こだわりの一杯」。こだわるという言葉は、どちらかというと自分の考えを押付けるという概念の強い言葉になります。そこに少し、科学的エッセンスを加えて恣意的になりがちな視野を珈琲の科学と題して普遍性を加えた考え方をシリーズ化してみようかと思います。

 例え珈琲の飲めない人でも珈琲の香りは好きだというお話はよく聞きます。珈琲の香りにはリラックス効果、ストレスの解消など一般的に癒やしという効能があります。珈琲を構成する香気成分は600種類以上。しかし、その一つ一つの含有量は多いものでも1%未満と「珈琲の香り」と代表される成分は存在しません。そして、この香気は、ご存知の通り焙煎によって総香気量が増加します。焙煎度合いを増すことで単純増加していくものの中にフェノール、ビリジン類、ピロール類があります。調べていただくとわかるのですが、これら単体をとっても、とても珈琲の芳しい香りとは似ても似つかない香りです。フェノール臭は絵の具のような薬品の香り。ビリジン類などは、腐り果てた魚のような臭いと例えられています。珈琲の香りが如何に複雑に構成されているかがわかります。

 珈琲の主要な香気成分の多くは、水溶性に乏しく、挽いた時の香りと抽出された時の香りが異なることに繋がります。人は食物を香りと共に味わうため、飲めないけど珈琲の香りは好きという最初のお話に関係してきます。そして、この香気成分は不安定な物が多く、経時によって劣化を感じる成分へと化学変化していきます。

 面白い事にある程度の経験を積むことで珈琲を飲まなくとも挽いた時の香りだけで、どのぐらいの香りが間引かれるのか予測ができるようになります。挽いた時点で味を想像する事ができるのです。また同時に抽出者は、珈琲の香りの欠損原因(機器の汚れや抽出ミス、精度の低い機具、手際の悪さ)を省いていく事にも注意を払うことが必要です。